10年くらい前の話になるが、
とある企画で「300頭くらいの野犬の群れを見たことがある」という話があった。
以下、その顛末(てんまつ)である。
現場はK市郊外N地区。道道(どうどう)沿いに山林と農地が広がる、道東ではお馴染みの風景だ。とりあえず近隣の民家で情報収集する。
一軒目。
「この辺で野犬の群れを見たという話があるんですが、何か知りませんか」
「ああ、いたな。ずいぶん前だけどな。でも野犬じゃなくて、飼ってた犬だよ」あまり歓迎している雰囲気ではなかったが、とりあえず話してはくれるようだ。
「飼い犬ですか」
「どっからか拾ってきてな。そこに他所からまた捨てに来るからどんどん増えて」
「300頭くらい?」
「そんなにはいない。30頭くらいだったかな」一気に十分の一になってしまった。
「その家は今も?」
「もう引っ越して取り壊されてるよ」
礼を言って帰ろうとした時、住人の背後から白い犬がのっそりと顔を出した。気付かなかったが、ずっと足元にいたようだ。
(何だ、犬飼ってるじゃないか…)妙な違和感を覚えつつ、その場を去った。
二軒目は斜面に建つコテージ風の家。留守だった。
三軒目。気のいいおばさんが当時の事について詳しく教えてくれた。
「今のKさんの家の辺りに家を借りてる人がいてね、その人の犬だったよ。何日も家を空ける事が多くて、餌もろくにあげないからいっつもお腹を空かせてたねえ。車で通る人達がたまに餌をあげてたみたいだけど。それで車が来ると餌が貰えると思って道路に出て来てはねられたりして…可哀想だったねえ」
どうやら、腹を空かせた犬たちを野犬の群れと誤解したというのが真相だったようだ。。
「この辺は農家が多いから、牛のお産の時期になると血の匂いを嗅ぎつけてその犬たちが集まってくるのさ。郵便配達の人とかも怖がってたみたいだよ。何度も鎖に繋ぐように言ったんだけど全然聞かなくて。それで役場に来てもらったんだけど」
「というと、屠殺処分ということですか?」
「そう。それでその飼い主が怒って死んだ犬を家の前に並べて…」かなり凄惨な光景だったようだ。
その後飼い主はどこかに行ってしまい、新たに越して来た人が家を建てる際に土地を掘り起したところ、犬の骨が次々と出てきたという…。お祓いまでする騒ぎになったそうだ。
因みにこの地域の山林には本当に野犬の群れがいるらしい。ハンターが捨てて行った猟犬が野生化して群れを作っているのだとか。熊は人の気配を察すると逃げていくが、犬たちは集まって来るので、近隣の住民は熊よりも恐れているそうだ。人間を恐れず、狩猟用に品種改良された犬たちが野生の本能に目覚めて山中を徘徊しているとなると、こんな危険な事はない。皆さんも山歩きの際はくれぐれもご注意を…。